病院に学校ができた!“病院完結型”から“地域完結型”へ

昭和上條医療賞・受賞者探訪

第6回 昭和上條医療賞受賞~地域保健医療貢献部門~

布施克也 先生

魚沼市立小出病院(地域医療魚沼学校)院長(校長)新潟県魚沼地域の病院長として、地域包括ケアの実現のため、地域医療を担う専門職種間の連携強化、地域住民の啓発などを目的に、2011年度から「地域医療魚沼学校」を開設され、活動を主導する。「学生・研修医が学ぶ」「多職種連携教育及び協働実践の場」「住民が学ぶ」を三本柱としたカリキュラムで、開校から延べ4万人を超える地域住民が「地域医療学校」に学んでいる。

「病院を学校にする」というきっかけは何だったのですか?

布施

高齢化社会を迎え、地域住民は「病気にならないように健康を保ちたい」、「病気を治し和らげたい」、「障害とともに生きたい」と思う。このためには専門職同士の今まで以上の連携だけではなく、地域生活のプロである住民自らが家族や地域社会を守るすべを身につけることが必要と考えたからです。ともに「学ぶ・伝える・実行する」ことが地域を守ると考えたからです。

地域住民と考える地域医療について、先生の思いの原点を聞かせてください。

布施

地域社会の安心や安全は住民や地域社会の「そこぢから」により成就するという強い思いから、2011年4月に地域医療魚沼学校の開校に至りました。

開校に向けて相当の苦労があったと想像しますが?

布施

以前の医師会長が行政としっかりと連携して動くという土壌を作ってくださったことで、非常に助かっています。行政の皆さんと魚沼学校のメンバーが精力的に企画や運営を進め、演者の発掘等にも関わってくださっています。それに何といっても受け手側の住民の方々が主役として健康の維持増進に向けて動いてくださり、これが大きなドライビングフォースになっています。私たちが医療機関にいることから、小さな街で住民の皆さんとお互いに顔の見える関係になれることも、その後の運営がスムースであった一因なのかなと思っています。

学校の教育理念として「自立した住民が地域を創る」、「連帯と連携で地域を守る」、「学び続ける地域医療」を掲げていますが、具体的にはどのようなプログラムですか?

布施

住民対象のプログラムである「ナイトスクール」は、出前型の健康座談会で車座となり住民と相互交流をするものです。講師には医師、薬剤師、看護師、保健師、研修医・医学生など多くの専門職が担当します。「オープンスクール」は、保健・医療、福祉課題について医療者からの健康講座です。「クラスインスクール」は、児童・生徒を対象として喫煙防止、性教育、アルコールなどをテーマに学校で行うものです。その他、「講演会」では健康問題や災害対策などについて、今から出来ることをテーマに100名以上の地域からの参加者を迎えて行われます。

膨大なプログラムですが、住民はどのように関わっていくのですか?

布施

健康の維持増進に向けて、受け手側の住民の方々が主役で動いていただいています。また、行政も参加し企画や運営まで関わってくださり、盛り上がっています。更に、我々は市立病院であることから健康増進や福祉などに市の職員も一緒に活動してくださり、これも非常に助かっています。

「クラスインスクール」は、児童・生徒を対象とした健康講座ですが、受講者の皆さんの反応はどうですか?

布施

これには結構工夫を凝らして臨んでいます。例えば、シナリオを作成し児童、生徒の前でスタッフ同士が語らいながら訴えていくというかたちです。「喫煙防止」をテーマにしたときは特に受けが良くて、参加者も積極的に発言してくれます。また、研修医が講師となった例では、いろんな質問に回答が難しい場面もあり、講師自身にとっても良い経験になっているとの声も聞きます。

開校から13年が経過しましたが、これまでに何人の参加がありましたか?

布施

「医学生・研修医が学ぶ」1,870人、「専門職が学ぶ」15,957人、そして「住民が学ぶ」24,634人で総勢42,461名の参加がありました。

住民対象では年間に何件の活動がありますか?

布施

昨年度の住民対象プログラムでは、楽語い講座19件、講演会2件、オープンスクール10件、ナイトスクール1件、中学生の病院職場体験クラスインスクール16件で計48件でした。

話題性のある内容で住民の皆さんは次の勉強会を大変楽しみにしていると思いますが、開校以来、住民の皆さんの変化を感じられますか?

布施

当初に比べ健康に対する意識が変わってきたかなと感じています。今後は健康増進だけでなく、介護保険制度をうまく利用して生まれ育った地域で生活し続けることなども一緒に学んでいきたいと思います。

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